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海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

商品情報

村上 春樹(著) | (イラスト)
文庫:486ページ
発売日: 2005-02-28
Amazon.co.jp ランキング: 1824位
AverageRating: 4.0
TotalReviews: 160
TotalReviewPages: 32

評価:5新しい世界へ向かう2つの旅。: 2010-03-05

pezmania!!()
世界でいちばんタフな15歳を目指す男の子、田村カフカくんの章と、

小学生の時に不可思議な事故にあって、

記憶と文字を理解する能力を失ってしまった老人、ナカタさんの章が交互に書かれています。

4歳の時に母と姉が出ていってしまい、父親一人にに育てられた田村カフカくんは、

父親の「お前は父親を殺し、母と姉と交わるだろう」という予言を胸に、15歳で家出をします。

夜行バスで四国にたどり着き、私立図書館の一室に身を寄せることになったカフカくんの、

過去との出会い、予言への抵抗、そして新しい世界への旅立ちの物語です。

一方、ナカタさんも中野区から何かに導かれるように、四国へと向かい、

途中ヒッチハイクをしたホシノくんの力を借りて、“普通の”ナカタさんに戻る旅をします。

表裏一体のこの2つの物語は、最終的に繋がっていくのですが、

そこには様々な謎が残されたまま、物語は終わってしまいます。

村上春樹ワールドというか、あの独特の世界観を解釈しようとするのではなく、

あるがままに受け入れてみた方が楽しめるのではと思います。

評価:5ただ一人のためだけに書かれた小説: 2010-02-06

hanpenkirai(東京都)
面白いかどうかは関係ない、
ただ一人の読者のために書くと
村上春樹が決心したであろう小説に違いない。

その一人とは、
酒鬼薔薇 君である。

そして同じように
人を殺したいと思っている15歳の少年ために
書かれた小説である。

だから、人を殺したいと思っていない大人たちにとっては
面白くないかもしれない。
それでも構わない、彼の心を何とか救わなくてはいけない
との思いが漲っている。

人を殺したいと思わずにはいられない少年こそが読むべきである。


村上春樹は、
現実を軽くして、読みやすくPOPに書いているように
思う読者もいるだろうが、
特に『アンダーグラウンド』以降、
現実に思いっきり関わっていこうとの志を持っている
稀有な作家に違いない。



評価:4現代の神話、少年の魂の再生物語: 2010-01-26

koma(Tokyo)
この本は、下敷きになっている話(オイディプス、カフカ、その他の古典)を知らなくても楽しめるが、知っている方が小説の構造を重層的に楽しめる。さらに、愛すべきキャラクターが出てきて、読んでいて楽しい。そして、読後にも、いろいろと謎解きが楽しめる(なるほど、あのとき、入り口が開いちゃって、そのときナカタさんが、、、とか、だから、今回も彼が、とか、少年も、あっちへ行く必要がね、とか)。
 疑問点は、現在の読者層の少年・青年は、そんなに性的なものにとらわれているんですか?ということ、コミュニケーションの不可能な存在、かつ、救済を与える存在としての女性のモチーフが他の村上作品にも出てきて、関係を結んだり、ことに及んだりするんですが、その必要ってあるの?やや淡泊な世代に属す者としては、他の読者の感想を聞いてみたいと思う。こんな風にこの作品について、いろいろ他者と語り合ってみたいと思うのが、この作品の奥深さの証明なのだ。

評価:5得意のパラレルワールド: 2010-01-21

john()
村上春樹得意のパラレルワールドが展開していく。
世界一タフな15歳を目指す「僕」は、昔から「カラスと呼ばれる少年」のアドバイスを受けながら抑圧された日々を送っていた。
そして、15歳になった彼は父親からの自立を目指して、一路高松を目指す。
たどり着いたのは個人が設立したとある図書館。
名前を聞かれ、彼が名乗ったのは「田村カフカ」。
彼は受付の大島さん、館長の佐伯さんと不思議な距離感を保ちつつ、図書館で暮らし始める。
一方、戦時中の小学生時代に不可思議な現象を経て、一切の記憶をなくしてしまったナカタさん。
彼は猫の言語を話すことが出来るために、家出猫を探すことでわずかな報酬を得ながら暮らしていた。
ゴマという子猫を探している時だった。
公園で黒い犬に先導され、とある屋敷を訪れたナカタさんは「ジョニーウォーカー」さんから、とあることを頼まれる。
ふと我に返ったナカタさんは、西へ向かうことにした。
自分でも理由はわからないまま。
道中、トラック運転手の星野青年と行動を共にすることになり、彼らがたどり着いたのもなぜか高松だった。
田村カフカは、佐伯さんが昔出したレコード「海辺のカフカ」と、壁に飾ってある「少年の絵」をきっかけに佐伯さんの心の中に入り込んでいく。
ナカタさんと星野青年は、「カーネルサンダース」の力を借りながら、「入口の石」を探す。
田村カフカとナカタさん。
これまで何の接点もなかった二人が、なぜか徐々に近づいていく。

ファンタジーの香りがするがファンタジーではなく、推理小説風だが、推理小説ではない。
荒唐無稽な現象が続発するものの、この物語の中ではそんなことが当たり前に思えてしまう。
読者はそうやって村上春樹に感化されながら、不思議な好奇心を維持し続けながら、最後まで読み続けてしまう。

やはりこの作品にも、村上春樹のテーマである「生と死」が根底に流れている。
死があることによって生が強烈に浮かび上がる。
しかし、生と死が対極的に描かれているわけでもない。
この描き方が村上春樹独特な雰囲気を醸し出しているのだと思う。

そういえば、田村カフカが森の中で入り込む世界は、「世界の終わり」の街に非常によく似ている。

評価:4〜 寓話と象徴の謎かけに満ちた、想像膨らむ良作。 〜: 2010-01-21

一戸 宏 / Hiroshi Ichinohe(東京都)
2000年以降、村上 春樹さんにとっては初めての長編小説作品。

15歳の少年が訳あって家出をし、見知らぬ土地へ向かっていくとの、
基調となる筋立ては、決して奇をてらったものではないし、むしろその
平易な文体と相まって、非常にオーソドックスな印象を受ける。

その物語自体を純粋に楽しむこともできるだろうし、それで物足りない
人は、作品の中に込められた沢山の寓話性と象徴的な出来事から、
答えのない謎かけに、自分なりの想像を巡らすこともできる作品。

全体のトーンが、静かでありながらも何か不穏な空気に満ちている
こともあり、特定の感情を刺激されるかもしれない。僕自身も、一度
体調が思わしくない時には、途中で読むのを止めたことがある。

また、主人公のカフカ少年もさることながら、個人的には脇役として
登場する登場人物の中で、「大島さん」と「ナカタさん」が何を言わんと
しているのか、上巻を読み終わった今でも考えている。

大島さんは、攻殻機動隊のアオイ君を連想させる引用マシーンで、
物語全体の枠組みを形作っていく「語り部」の役割を果たしている。
その手法は、松岡 正剛さんの著作なども彷彿とさせる。

ナカタさんについては、村上さんがずっと書き続けている「失われた」
「損なわれた」ある種のイノセントさの象徴かもしれないが、それも
また作中のある段階で再度「失われた」ように感じられる。

作品の中でも、実際にギリシア神話の引用が多数見られるが、
例えば近親愛・近親憎悪といった原初的なものが多く描かれて
おり、好き嫌いは別として一人ひとりに語りかけるものはあると思う。

▼ 本 文 引 用
ナカタさん、ここはとてもとても暴力的な世界です。誰も暴力から
逃れることはできません。(171)

痛みというのは個別的なもので、そのあとには個別的な傷口が
残る。(384)

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