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カフカの生涯 (白水Uブックス)

カフカの生涯 (白水Uブックス)

商品情報

池内 紀(著) | (イラスト)
単行本:350ページ
発売日: 2010-06-29
Amazon.co.jp ランキング: 188616位
AverageRating: 4.5
TotalReviews: 7
TotalReviewPages: 2

評価:4カフカの生涯: 2010-04-11

中島弘貴(東京都)
フランツ・カフカという作家は実に誤解を受けやすい人物なのではないだろうか。不条理文学の代名詞であり、代表作「変身」や「審判」の本文よりも寧ろその粗筋やイメージによって奇怪な、難解な作家として敬遠されることが多い。

カフカには心身ともに頑健な父親への過剰ともいえる反抗心があった。男女関係とは程遠い、たった一度の出会いの一ヶ月後に長い手紙を相手の女性へ送り、その後に手紙魔と化すという、独特な恋愛の傾向があった。加えて、自らの重大な決定を先延ばしにし、不満を訴えながらも運命を享受する態度を取り続けた。一方で、彼は真面目に仕事をこなす比較的有能な小官吏であったし、優しく物静かで謙虚な、多くの友人や女性に愛される人間であったという。
この伝記で示されるカフカ像は多少なりとも風変りに感じられはするが、奇人といわれる類の人物とは大きく隔たりがある。しかも、その像を構築するために用いられた膨大な資料は彼自身の日記や手紙、または作品という、極めて彼の実際に近いであろうものに限られているので、その結果には信頼が置けるのだ。

仕事を終えてから、夜っぴて小説を書き続けたカフカ。執筆を優先するため、恋人と実際に会うよりも専ら手紙でのやり取りを優先したカフカ。当時としては深刻な病であった結核の末期、ほとんど骸骨に近い状態まで痩せさらばえていたという死の直前にあっても出版予定の小説のゲラ刷りを読み返したカフカ。文学に懸ける一人の人間としての彼の姿が取り分け強く心に残る。

本書を読了すれば“不条理な”“奇妙な”、そのように偏った記号を通してではなく、生身の文章としてカフカの小説を読めるようになるかも知れない。カフカの名翻訳者でもある池内紀氏による、20年を超えるカフカ研究のすばらしい成果である。

評価:5何よりも書くために: 2008-12-16

平野武蔵()
目の当たりにすることのなかった人物の伝記を書こうとするとき、その人が生前に書き遺した作品や、周囲の人たちの証言や、その人が育った環境や、時代背景や、そういったものを総合的に判断して、その人物像を構築していかなければならない。したがって、我々は伝記作家の構築した人物を見ているのであって、それは実際の人物とは多かれ少なかれ異なっている。
しかし、この「カフカの生涯」の著者はカフカコレクションの翻訳者であり、すでにカフカに関する著作が何冊かある池内紀氏である。その彼の手によるカフカ像はカフカその人に限りなく肉迫するものではないか。

ここで描かれるのは何よりも書くことを最優先にした作家の姿である。
恋人と会うことよりも、恋人に手紙を書くことを好んだカフカ。
大した評価を受けることがなかったにもかかわらず、小説を書き続けたカフカ。それどころか、結婚や出世や睡眠をそっちのけにして、書き続けたカフカ。

カフカの小説は難解である。そして、その作者の行動も常人には理解しがたいところがある。しかし、すべては書くことを最優先にした結果であると考えれば、腑に落ちるような気がする。
何よりも書くために、それが池内が描き出したカフカ像だ。

評価:5カフカの社会史/父と子の物語: 2006-10-07

みずとり(大阪府)
感動的な評伝。著者の長年にわたるカフカ研究のひとつの到達点が、池内文学の頂点ともいうべき美しい作品になったことに、読者として悦びを覚えずにいられなかった。

学問的にバランスのとれた伝記であるとともに、的確な人間観察によって紡がれた、父と子の物語でもある。

フランツ・カフカの父は差別と貧困から身をおこした小さな立志伝中の人物とはいえ、どこにでもいる勤勉な商工業者であった。そして20世紀文学の巨星の生前は、都会育ちのひ弱な子供、文学マニアの大学生、小官吏、マイナー・ポエットにすぎなかった。

だからこれは、息子フランツの天才を除けば、典型的に平凡な中欧ユダヤ人家族の歴史でもある。日本人の手になるものとしては珍しく端整で精緻な文章で書かれた、ヨーロッパ社会史の傑作だともいえよう。

池内紀は私たち日本人の抱くカフカ像を刷新してきた。本書では、20世紀ヨーロッパ世界の現実に照らしてより説得力のある、生活人カフカの姿が鮮やかに浮かび上がった。ここでのフランツ・カフカは、時代を超えた私たちの隣人である。そして、このことによって、カフカ文学の謎はより本質的に深遠なものとして、私たちの眼の前に置かれることになったのである

評価:5日本語で読める最良のカフカの伝記: 2004-11-10

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日本の研究者がカフカについて書いた最良の本の1冊。カフカは友人を介してたった一回会った女性に、数ヶ月経って突然、手紙を送りつけ恐る恐る交際を迫る「変な男」だった。そしてその女性と交わした婚約を一方的に解消した勝手な男でもあった。まさに、「不条理」を身をもって実践した「天才作家」である。カフカの主要作品を美しい日本語に移した著者は、その背景に、たたきあげの「強い父」を持った「繊細な文学少年」の焦燥感があると指摘する。生活者として全く無能な自分に対する憐れみと劣等感が、カフカという特異な作家をつくった。もうひとつは、欧州におけるユダヤ人問題の根の深さである。家庭・肉親からの疎外と、排撃・差別の対象であったユダヤ人という出自による社会からの疎外。二重に背負わされた疎外が、カフカ的世界の原風景にある。著者はカフカ一族の歴史、そして父親の生涯を詳述することによって、不肖の息子であったカフカの悲しい物語を綴っているが、その筆致に、カフカへの深い傾倒と愛情が感じられる。一気によめる。

評価:5著者の研究の到達点であり、新しいカフカ像の出発点: 2004-09-05

赤い炭酢()
長年カフカ作品の訳出と研究にいそしんできた著者の到達点といえる評伝。

ハプスブルグ帝国、プラハという都市、ユダヤ人問題、戦争など、カフカが生きた時代の背景が精確に描き込まれている。友人であるマックス・ブロートのこともきっちりと。むろんカフカ本人のディテールについては細密に至るまで丹念に調べ上げられている。保険協会の職員として、現代のサラリーマンのように働く日々。異常なほどの手紙好き。恋愛。病気。そして、1924年のウィーン近郊でのひっそりとした死。
新しいカフカ像はこの本を出発点に形成されていくだろう。


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